晴耕雨読と〇部録

ビブリオバトル、茶トラネコ、書評、日々の雑感などを書き連ねる

『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』 長谷 敏司

 時代設定が2050年代でAI技術が発達していることを除くと、SF要素はあまりない。
 
 事故で右足を失った若いコンテンポラリーダンサーが主人公。彼はAI制御の義足を身につけることになる。彼の父は高名はダンサーであり、彼も父を追って身体表現の高みを目指していた。

 その父親が交通事故を起こし頚椎を痛め、同乗していた母は亡くなってしまう。さらに父親は認知症が出始め、一人で介護せざるを得なくなる。なにやら重苦しい展開になり、読み続つけるのがしんどくなった。自分も親の介護の経験があるので、主人公の気持ちが痛いほどわかるのだ。あとがきを読むと、作者も親の介護を経験したとのこと。

 主人公は親の介護に苦悩すると同時に、人のダンスとロボットのダンスを隔てる「人間性の手続き/プロトコル」を表現しようと苦悩する。SFというよりは、純文学の香りがする。
 
 第54回星雲賞、第44回SF大賞受賞作。

プロトコル・オブ・ヒューマニティ 

『仁義ある戦い -アフガン用水路建設 まかないボランティア日記-』杉山大二朗

 著者の杉山さんは、大学卒業後、定職には就かずイラストレーターや様々な仕事をしていた。旅先のバンコクで知人からアフガニスタンの話を聞き、中村哲先生の本を奨められる。日本に帰り本を読み衝撃を受ける。そしてぺシャワール会のホームページで「現地ワーカー募集」の告知を見つける。さらに、中村先生の講演を聴き、「現地ワーカー」に応募することになる。
 
 現地での仕事は、用水路建設の現場作業や会計、診療所の事務等様々をこなす。そして重要なのが、「賄い」である。現地ワーカー達の夕食を作ることである。杉山さんは料理が得意だった。

 これは2002年から一時帰国をはさんで2011年まで、中村先生と共に働いた日々をマンガとエッセイで綴った本である。あまり知られていないであろうぺシャワール会の現地での活動を、悪戦苦闘する日々をユーモアを交えて描いている。

 最初は、なぜタイトルが「仁義ある戦い」なのか、全くわからなかった。こんな話がある。用水路を通すために、その地域の軍閥のボスのところに話をつけに行くことになる。中村先生と一人のスタッフがそのボスのところに赴く。ボスはたった二人で、しかも丸腰でやってきた中村先生の勇気に感心し、用水路を通すことを認める。中村先生は仁義を重んじ情けも深い人のだ。

仁義ある戦い ―アフガン用水路建設 まかないボランティア日記― 

『AIとSF』 日本SF作家クラブ編

 日本SF作家クラブ編集による短編集である。ポストコロナとSF(2021)、2084年のSF(2022)に続く書下ろしアンソロジー。

 まだ”AI”という言葉がなく、電子頭脳あるいは電子計算機、単にコンピューターと呼ばれていた時代からそれらを題材にした小説があった。人間に造反したり、反乱を起こしたりするものが多かったような気がする。本書にはそんな単純な話はない。現在では実際に人間の能力と同等のAI(人工知能技術)が登場してきたからである。帯にある「未来をつかむのどちらか?」のとおり、未来は一体どうなるのであろうか、気になるといえば気になる。

 本書の最後に収録されてる「この文章はAIが書いたものではありません」は、小説ではなく大学の先生が書いた「現在のAI」についての解説である。AIってよくわからないと感じている方は、これを最初に読んだほうがよい。

AIとSF (ハヤカワ文庫JA) 

ビブリオバトルに参加しました

4/28(日) 第113回志津ビブリオバトルに参加しました。私は第2ゲームに「夏目漱石ファンタジア」で参戦しました。

seiu-neko.hatenablog.com

結果です。赤字がチャンプ本です

第1ゲーム テーマ「渋谷」

1 東電OL殺人事件 (佐野眞一)
 神の犬 (谷口ジロー)
3 シブヤニアファミリー (久米田康治)

 神の犬 (1) (小学館文庫 たD 5)

 

第2ゲーム テーマ フリー

1 ノルウェー秘密工作 (ジェイン・コービン) 
2 そして、バトンは渡された (瀬尾まいこ)
3 毒の話 (山崎幹夫)
4 夏目漱石ファンタジア (零余子)

毒の話 (中公新書 781) 

 

数年前に読んだ本「女装と日本人」

 キワモノ系の本かと思って読んだら、かなりアカデミックな内容で驚いた。著者は、戸籍上は男性で、M t F のトランスジェンダー(性別越境者)で、社会・文化史研究家。日本最初のトランスジェンダーの大学教員となった。

 本書は、「古代から近代までの日本の歴史の中の現れる女装に関するさまざまな事象を取り上げ、社会・文化史的に説き明かすとともに、現代における女装コミュニティや性別認識を分析し、さらに世界の女装文化の比較文化論的位置づけにまで及ぶ。日本初の女装に関する専論書として井上章一、原武史、松岡正剛など知識人・読書人の評価が高く、現代風俗の領域での独創的な研究に対して授与される第19回(2010年度)橋本峰雄賞(社団法人・現代風俗研究会)を受賞した」(Wikipediaより引用)。

 LGBTへの偏見差別は、明治中期以降に欧米文化(特にキリスト教)の影響というか、導入によるもの。明治初期までは、日本ではLGBTに対して「おおらか」な社会であった。変態(ヘンタイ;変質者とかいわれる)は、大正期に翻訳された「変態性慾心理」に由来していることがわかった。

 そして、あとがきにあるように、性別を超えて生きようとすることを社会悪とした19世紀以来の欧米の精神医学、この基本思想がいまだに息づいていること。「変態性慾」、「異常性欲」、「性的逸脱」、「性同一性障害」と名称こそ変えてきたものの、あいまいな性の存在を許さない性別二元制と異性愛絶対主義が今なおはびこっている。
 本書の巻末には多数の参考文献が掲載されており、勉強になること請け合い。いわゆるLGBT法案に反対したり、危惧したりしている議員さん達には、ぜひとも読んでいただきたい。

昨年読んだ本「奇跡のバックホーム」

 読んでるうちに目がうるうるしてきた。

 2023年プロ野球セ・リーグは阪神タイガースが優勝した。9月14日の巨人戦、タイガースが9回表を抑えればリーグ優勝というところで登板した岩崎は坂本勇人にホームランを打たれたものの一点差で抑えきり、阪神は見事リーグ優勝を果たした。
 岡田監督が宙を舞った後、背番号24のユニフォームが、岩崎が持つ形で胴上げされ宙に舞った。
 この背番号24を付けていたのが、横田慎太郎である。彼は7月18日に、脳腫瘍のため神戸市内の病院で死去した。享年28歳。

 野球少年だった横田はプロ野球選手になるという夢を叶えたが、病魔に倒れ選手生活を諦めざるを得なかった。

 題名の「奇跡のバックホーム」とは、彼の引退試合でのセンター前ヒットをバックホームで二塁走者を捕殺したプレーである。

読んだ本 「夏目漱石ファンタジア」

 ラノベなのだが、本書は紛れもなく怪作である。第36回ファンタジア大賞受賞作。

 日比谷焼き討ち事件を端緒とする言論統制を目的とした政府による作家に対する権力の横暴。そして社会主義者による暴力に対して漱石は武装組織「木曜会」を立ち上げる。そして漱石は個人主義を大義に掲げ、暴力には暴力で対抗した。

 そんな中で漱石は暗殺され、その脳が冷凍保存されていたかつての婚約者樋口一葉の体に移植される。それを手配したのは森鴎外。そして執刀したのは野口英世である。
 その頃、作家たちを襲い脳を持ち去るという事件が起きていた。この猟奇的殺人犯「ブレインイーター」とは何者か?その目的は?

山本先生 まだお若いのに残念です

 SF作家の山本弘先生が先日お亡くなりになりました。「BISビブリオバトル部シリーズ」好きでした。もう続きは読むことができないんですね。

 

 ビブリオバトルではこの本で初めてチャンプ本を取りました。

 

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以前に読んだ本「時砂の王」

 人類はETが造りだした「バーサーカー」に敗れ去り、もはや滅亡は避けられない。人類は最後の望みを託し、人型人工知性体メッセンジャー達を戦略支援知性体「カッティ・サーク」とともに過去へと送りこむ。「人類滅亡」の未来を変えるというか、時間軸を分岐させるために。ちょうど「ターミネーター」とは逆の設定となる。メッセンジャーの一人オーヴィルのハードで切ない物語にシビれる。しかしながら、最後は唐突ともいえるハッピーエンドを持ってこなくても良かったのではないか。どこかの分岐された時間軸で、ハッピーエンドの世界がきっとあるはずだから。何度も読んだお気に入りの作品。

時砂の王 (ハヤカワ文庫 JA オ 6-7)

時砂の王 (ハヤカワ文庫 JA オ 6-7) 

ビブリオバトル最新結果

 2024年3月24日 (日)の第111回志津ビブリオバトルにバトラーとして参加しました。常連さんたちが不参加ということもあって。参加者6名でうちバトラー4名でした。当初2ゲームの予定でしたが、テーマフリーで1ゲームとなりました。

 結果は以下の通りです。

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